デジタルツインによる
群集マネジメントシステム

AIカメラ、Bluetoothセンサー、LiDARとマルチエージェントシミュレーションを組み合わせ、大規模イベント会場の群集流動をリアルタイムに予測。東京ドームシティでの実証実験を通じて、経験と勘に頼らない科学的な群集誘導の実現に取り組みました。

群集マネジメント デジタルツイン AIカメラ Bluetooth・LiDAR リアルタイム予測 マルチエージェント
東京ドームシティにおける群集流動予測のデジタルツイン
東京ドームシティにおける群集流動予測のデジタルツイン
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背景と課題

Background

スタジアムやコンサート会場、大規模商業施設など、不特定多数の人が集まる場所では、群集の安全確保と効率的な人流誘導が重要な課題です。特にイベント終了後は、数万人規模の観客が短時間に一斉に退場するため、出口や駅への経路で深刻な混雑が発生することがあります。

従来、こうした群集マネジメントは現場スタッフの経験や勘に大きく依存してきました。しかし、試合内容や天候、周辺イベントなどによって群集の流れは大きく変化するため、経験則だけでは対応しきれない場面が増えています。

そこで本研究では、リアルタイムのデータに基づいて群集の流れを予測し、科学的に誘導計画を立てられるシステムの開発に取り組みました。

02

デジタルツインとは

Digital Twin

「デジタルツイン」とは、現実世界の施設や空間をコンピュータ上に精密に再現する技術です。センサーから取得したリアルタイムのデータを仮想空間に反映させることで、現在の状況の把握から近未来の予測までを一つのプラットフォーム上で行えます。

本研究では、このデジタルツインの上でマルチエージェントシミュレーションを実行しました。一人ひとりの来場者をコンピュータ上の「エージェント」として再現し、それぞれが周囲の混雑状況に応じて速度を変えたり、経路を選んだりする様子を模擬しました。

デジタルツインの力は、次の4つの要素を統合した点にありました。

リアルタイムデータ連携

AIカメラ、Bluetoothセンサー、LiDARなどからの人流データをリアルタイムに取り込み、仮想空間に反映しました。

高精度な空間モデル

建物・通路・歩道橋など複雑な3次元構造を精密にモデル化し、実際の通行環境を再現しました。

シミュレーションと可視化

その時点の状態から近未来の群集流動を予測し、専門家以外にもわかりやすい形で表示しました。

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東京ドームシティでの実証

Tokyo Dome City

東京ドームシティでは、野球試合終了後の観客動向を予測・分析するデジタルツインシステムの実証実験を行いました。試合終了後、数万人の観客がJR水道橋駅、都営三田線水道橋駅、東京メトロ後楽園駅などへ分散して移動するため、効果的な群集マネジメントが重要でした。

図1 — 東京ドームシティの空間デジタルツイン

空間モデルの構築

3次元地図データと現地でのLiDARスキャンを組み合わせ、東京ドームから各駅に至る経路を精密に再現しました。商業施設内の歩行者デッキや歩道橋といった複雑な立体構造も正確にモデル化しました。過去に混雑が発生した水道橋駅西口の歩道橋や東口南歩道前などの重点箇所は、通行容量を含めて特に詳細な調査を行いました。

AIカメラ・各種センサーによる人流計測

施設内の主要箇所に設置したAIカメラに加え、BluetoothセンサーやLiDARも用いて、人の流れをリアルタイムに計測しました。カメラ映像から人数だけでなく、流動方向や密度の分布も抽出し、群集の状態を詳細に把握しました。さらに過去のイベント時の人流データを分析し、退場者数の推移や経路選択のパターンをモデルに反映させました。

イベント時特有の群集特性

現地調査では、イベント時の群集が緊急避難時とは異なる行動を取ることが明らかになりました。例えば、余裕のある対人距離を維持する傾向や、密度が上がるにつれて歩行速度が変化するパターンなど、イベント特有の群集特性が観測されました。さらに、信号による横断歩道の開閉サイクルも群集の流れに大きな影響を与えることがわかり、これらの要因をすべてシミュレーションモデルに組み込みました。

マルチエージェントシミュレーションによる群集流動の再現
図2 — マルチエージェントシミュレーションによる群集流動の再現
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リアルタイム予測のしくみ

Real-time Prediction

このシステムの中核は、試合終了後の退場者数を予測するモデルでした。観客数や試合終了時間を主なパラメータとし、過去の実績データに基づいて流動パターンを予測しました。試合中のイニング情報やアウトカウントから残り時間を推定する機能も備えており、試合終了前から群集マネジメントの準備を始めることができました。

5分
シミュレーション実行間隔
15分先
予測計算の時間範囲
A〜F
混雑度レベル(LOS指標)

シミュレーションは5分間隔で実行され、15分先までの群集流動を予測しました。結果は管理者向け来場者向けの2つのインターフェースで提供されました。

管理者向けシステム — 混雑を「見える化」する

重点箇所ごとの混雑度(LOS: Level of Service)をA(自由流)〜F(極度の混雑)の6段階で表示しました。混雑度がE・Fレベルに達すると予測された場合は、警告を発して早期対応を促しました。予測精度もリアルタイムに検証できる仕組みを備えていました。

管理者向けシミュレーション可視化システム
図3 — 管理者向けシミュレーション可視化システム

来場者向けには、スマートフォンを通じて混雑予測情報を提供し、自主的な回避行動を促しました。混雑の分散と周辺商業施設への立ち寄り促進という、安全と経済活動の両立も目指しました。

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群集マネジメントの活用

Applications

データ駆動型の群集マネジメントは、従来の経験則に頼った対応を、科学的・定量的なアプローチへと転換できることを示しました。リアルタイムデータと過去データの統合による精緻な予測、施設固有の特性を考慮したモデル構築、3D可視化による直感的な情報共有が、その強みでした。以下のような場面での活用が期待されます。

スタジアム・イベント会場

試合やコンサート終了後の退場誘導計画をシミュレーションで事前検証。リアルタイム予測で混雑発生前の対応を可能にします。

自治体・交通管理

大規模イベント開催時の周辺交通への影響評価や、公共交通との連携した群集分散計画の策定を支援します。

施設管理・商業開発

日常の人流最適化から非常時の避難誘導まで、平時と有事を統合した空間マネジメントを実現します。

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お問い合わせ
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出典

Reference
関連論文
高橋彰, 安福健祐, ムハンマド ヘガジー: 大規模イベント終了後の群集制御に関するマルチエージェントシミュレーションの適用性, 日本建築学会計画系論文集, 第89巻, 第819号, pp.808-817 (2024)
Kensuke Yasufuku, Akira Takahashi: Development of a Real-Time Crowd Flow Prediction and Visualization Platform for Crowd Management, Journal of Disaster Research, Vol.19, No.2, pp.248-255 (2024)

謝辞
本研究は JST 未来社会創造事業 JPMJMI20D1 の助成を受けたものです。
2024年度成果集: JST 未来社会創造事業 2024年度成果集